グルジア国立バレエ『ロミオとジュリエット』 アナニアシヴィリ&ウヴァーロフ 2010年3月5日

『ジゼル』ではすっかりネガティブなことばかり書いてしまったが、『ロミオとジュリエット』はとーっても良かった!!ニーナ・ファンの皆様失礼いたしました!

ラヴロフスキー版はクランコやマクミランの原典となったヴァージョンであり、物語バレエの先駆的存在。振付はマクミラン版ほどの複雑さ派手さはなく、ストーリーに無理のない場構成だが、どのシーンも割りとあっさりと展開していく。バルコニーも最後の死のシーンもさっぱり薄味。だが、今のバレエ団のレベルではこのヴァージョンでなければ、こなせないのであろう。しかし、この演目を観賞に耐えうるレベルで上演することは、バレエ団にとってとても大きな経験となるだろうと、ニーナが敢えてこのヴァージョンを選択したのは理解できるし、正解だったと思う。そして、薄味のラヴロフスキー版ではあったが、ニーナとウヴァーロフの熱い演技のおかげで、胸に迫る深い感動を覚えることができた。ニーナの本日の踊りはとても滑らかで美しく、ウヴァーロフのサポートは愛にあふれていて、2人のパートナーシップは本当に素晴らしい。

少し残念だったのは、場面展開がぎこちなく、紗幕ではなくカーテンで場面を切り替えていたのが少々味気なかった。予算のせい? 

ものすごく残念だったのはオケ。とても良い曲なのに、最初の美しい旋律で弦がよれるは、金管は終始割れまくり。指揮者のテンポも今一つ?時々聴くに耐えないほどバラバラな演奏だった。オケの人たちからニーナは人気者のようで、メンバーが全員スタンディング・オベーションしていたのが印象的だった。

【第一幕】
幕が上がると、銅像の足元に一人の男性が横たわっている・・・あ、ウヴァ様ってことはロミオ。でも、いきなりの登場に会場から拍手が出ず。夢見心地のロミオは誰を思っているのだろう?そして、袖に消えていく。

街の人々の踊り。3人娘が素晴らしい。多分、ジゼルの時のドゥ・ウィリたち+ニーノ・ゴグア。
キャピュレット家とモンタギュー家の家来が2,3人ずつ交互に出てきて小競り合い。
ベンヴォーリオが出てきて、ティボルトが出てきて、また諍いが起きる。

とそこへティボルトとお揃いの衣装の主要そうなキャストがお付きをつれて登場する。ここで??え?こっちがティボルトだったの?と一瞬混乱するが、ティボルト役のイラクリ・バフタ−ゼはかなり個性的な顔立ちなので、判別できる。ティボルトより後に出てきたは誰???・・・後に分かるがこれはパリスだった。パンフレットのあらすじにも書いてあった。

両家の当主も出てきて争い始める。この場にロミオもマキューシオもいないのは何故なのだろう??この争いのシーンは登場人物の人数が少なく、舞台がやや閑散とした印象。

ヴェローナの大守が戒めるも、小突きあう両家。太守の従者によって御触れ?が提示され、両家は渋々引き下がる。(あらすじによると「ヴェローナの通りでは何人たりとも武器を使用してはならないという布告を読み上げる」。)

ここで赤地に金の水玉?模様の内幕が引かれる。音楽・・・が、大道具を動かすどすんばたんがすごかった。

幕前にはキャピュレット家の舞踏会での晩餐の準備をする人々。
ジュリエットの乳母も登場。太っていてユニークな動き。乳母のお笑いキャラはラヴロフスキー版が元だったのか。

赤い内幕が開くと、ジュリエットの部屋。はしゃいでなかなかドレスを着ようとしない。愛らしい容姿のニーナにジュリエットはぴったり。ちゃんと少女に見える。でも、キャピュレット卿夫人のニーノ・オチアウーリがとても若い?ので、並ぶとちょっと親子には見えなかった。踊りは無理感が漂っていた「ジゼル」から一転、とても自然な感じで、ジュテも軽やか、ポーズも美しく、なぜかすごく安心した。

再び赤い内幕。舞踏会の食事などを運ぶ人々。
赤い内幕が開くと、回廊。舞踏会に出かける人々。
女性たちは腕を伸ばして手の甲をクロスして合わせるポーズをしている。このキャピュレット家の独特なポーズはノイマイヤー版でもっと誇張されており、その影響が窺われる。ジュリエットの友人たちが吟遊詩人を伴って(なぜ?)、最後にパリス。パリスは鏡をみて服装チェック、自分の姿に満足して館に入っていく。ナルシスト?

再び内幕が閉じる。マキューシオ、ベンヴォーリオ、そして、ロミオが登場。岩田さん小さい・・・!3人の踊りはなく、ほぼマイムで会話。ベンヴォーリオとマキューシオがキャピュレット家の舞踏会へ忍び込もうと提案、嫌がる?ロミオをが説得し、仮面をつけて舞踏会へ。

内幕が開くと、そこは舞踏会・・・ではなく、晩餐。ちょっとびっくり。ジュリエットも友人たちと席についている。
細部は覚えてないがその後あの重厚なメロディーでの「クッションダンス」。これはキャピュレット家がゲストを迎える儀礼的な踊りなのだそう。これも後のバージョンに受け継がれている。クッションを度々受け渡しくれる役がいるのは新鮮。

この後は順番を良く覚えてないのだが・・・

ジュリエットの友人と吟遊詩人の踊り。この吟遊詩人役のヤサウイ・メルガリーエフはジゼルのパ・ド・シス+1ですごいテクニックを見せた東洋系のダンサーだった。ラリ・カンデラキとの息は今一つなようだった。

パリスがジュリエットにダンスを申し込み、2人で踊る。無邪気に踊るジュリエット。ロミオはここで一目惚れ?

マキューシオの踊り。岩田さんの踊りはレベルが違う。容姿に恵まれなくても、この踊りでボリショイでソリストを張ってきたのだなぁとしみじみ。この間にロミオはジュリエットに近づく。ジュリエットはロミオの視線に気付くと、なぜかとても強く惹かれる。

赤い内幕が両端4分の1ずつぐらい引かれ、センター奥には同じ赤のドレープが半円状に垂らされる。

マドリガル?舞踏会から離れ、初めて2人になるロミオとジュリエット。たちまち恋に落ちていく。仮面を取って二人で踊る。それをティボルトが見つけて激怒。2人を引き離し、ロミオに切りかかろうとするが、キャピュレット卿が制止し、この場は押さえるように言う。ジュリエットは乳母から彼はモンタギュー家のロミオであることを聞かされる(多分!)

赤の内幕が閉じ、幕前には舞踏会を辞する人々。マキューシオたちも帰ろうとするが、ロミオは一人戻っていく(だったかな)

幕が開くと、舞台奥には3段ほどのひな壇。バルコニーはない!舞台上手奥の階段からジュリエットが夢見心地でひな壇に下りてくる。マントを翻し下手へ駆け込んでくるロミオ。気付いたジュリエットがひな壇を降り、ロミオの側へ駆け寄る。ここはとてもあっさりとしていて、マクミラン版のような見つめ合いはない。

ロミオのソロ。ウヴァーロフは本当に調子が良いようで、今日も跳躍は高くて軽やか。ニーナのソロでは跳躍はあまりないが、ジュテ・アントルラセの脚とドレスの軌跡の美しいこと。ジュテはほどんどサポートが付くのはニーナのための改訂なのか?でも、スムーズなサポートとニーナの美しいポーズで、2人の気持ちの高まりがうまく表現されていた。そして、ニーナを高く掲げるようなサポート。胸が熱くなる。マクミランのような複雑な振付ではないが、流れるような美しいPDDだった。


【第二幕】
町の広場では人々が忙しく動き回っている。今日はヴェローナの大切な祝日。ここでも3人娘はとても上手くて目立つ。ロミオとマキューシオ、ベンヴォーリオも町の娘達と登場。マキューシオとベンヴォーリオは飲んで陽気に踊る。ロミオはバルコニーの余韻に浸って心ここにあらず。

そこへ乳母がジュリエットの手紙を持ってやってくる。この乳母、手紙と引き換えにお駄賃を要求していた・・・・手紙を読んだロミオはローレンス神父の元へ急ぐ。

ローレンス神父の庵は薄暗くて、不気味な雰囲気。ロミオが現われ神父に話をする。ジュリエットを待つ間何気なく机の上のものを手に取ると、それは頭蓋骨!この先の運命の暗示か。ジュリエットが到着し、ローレンス神父は結婚式を執り行う。

場面は再びにぎわう町中。一幕で吟遊詩人だったヤサウイ・メルガリーエフが道化になって、素晴らしいテクニックを披露。「道化」が出てくるところが古いバージョンらしい感じ。輿にのせられ、運ばれてきたマリア像が舞台装置の天井にひっかかってひやり。

行商人がぶつかったことに激怒したティボルトが剣を抜く。マキューシオが代わりに応戦し、激しい戦いが始まる。ロミオは止めようと何度も割って入る。なおも突っかかろうするマキューシオをロミオが押し戻したとき、背後からやってきたティボルトが隙を突いてマキューシオに剣を突き刺す。卑怯なり。マキューシオの死はこの版でもじっくり見せ場があるのだが、おちゃらけた性格がそれ以前に描かれていたわけではないので、不意をつかれて致命傷を負ったのが信じられない、そんなところ誰にもみせたくない、死にたくない・・・という断末魔の叫びに見えた。

親友の死に我を忘れて剣を取り、ティボルトと戦い始めるロミオ。長身の2人の闘いは迫力。ティボルトはあっさりと止めを刺され、ロミオは我に返って呆然とする。甥の死にキャピュレット卿夫人は髪を振り乱して嘆き悲しむ。傍らのキャピュレット卿は呆然・・・ キャピュレット卿夫人の悲しみはやはりティボルトが実は愛人だったという設定なのか。

【第三幕】
ジュリエットの寝室。ここの振り付けも派手さはないが、2人の熱演でぐっと胸に迫るものがあった。ここからはニーナの演技力でジュリエットにひたすら感情移入してしまった。

この後の展開はマクミラン版などと同じ・・なので、省略。ジュリエットはローレンスからもらった薬も死への恐怖におのののくことなく潔く飲んだのが印象的。

追放の日々をすごしているロミオの元へベンヴォーリオがジュリエットの悲報を届ける。そう言えば、ローレンス神父から真実の伝言がロミオに伝わらない・・・というエピソードはなかったような気がする。

ロミオがキャピュレット家の納骨所に駆けつけてくる。が、こんなに悲しみに病みやつれた感じのウヴァーロフを見るのは初めて。このシーンにパリスは登場しない。

この版では、ロミオは亡骸のジュリエットと踊るのではなく、棺から降ろして、抱きしめ、高々と掲げて棺への階段に登りジュリエットを元の場所に戻す。こちらの方が自然な感じがする。そして、毒をあおってロミオは棺の足元の階段に頭を下にして倒れる。ドラマチックなのだけど、頭に血がのぼらないのかしら・・・と心配になった。

ロミオが息絶えて、ジュリエットがすぐに目覚める。ロミオが亡骸となっているのに気付き、嘆き悲しむやすぐに自分も後を追おうとする。ロミオの飲んだ毒薬の瓶を拾って自分もあおろうとするが、中身がない!投げ捨て、ふと短剣を目にするやロミオの側に戻って一気に胸に突き刺す・・・

両家の当主がおもむろに入ってきて手を取り合って和解して幕。ここはちょっと説明不足で、これだったらこのシーンはなくても良いと思う。

しかし、あっさりしているようで、20分の休憩を2回はさんで3時間の舞台だった。

この後、ロイヤルのマクミラン版を観る上でその原典をみることが出来たのは非常に良かった。

グルジア国立バレエ『ロミオとジュリエット
2010年3月5日(金) 18:30〜21:30

音楽 : セルゲイ・プロコフィエフ
台本 : レオニード・ラヴロフスキー,セルゲイ・プロコフィエフ,セルゲイ・ラドロフ
振付 : レオニード・ラヴロフスキー
振付改訂 : ミハイル・ラヴロフスキー
振付改訂補佐 : ドミートリー・コルネーエフ,イリーナ・イワノワ, アレクセイ・ファジェーチェフ
装置 : ダヴィッド・モナヴァルディサシヴィリ
衣裳 : ヴャチェスラフ・オークネフ
衣裳デザイン補佐 : ナティヤ・シルビラーゼ
照明 : ジョン・B・リード
照明デザイン補佐 : アミラン・アナネッリ
舞台監督 : ニアラ・ゴジアシヴィリ
指揮 : ダヴィド・ムケリア
管弦楽東京ニューシティ管弦楽団

ジュリエット : ニーナ・アナニアシヴィリ
ロミオ : アンドレイ・ウヴァーロフ
ティボルト(キャピュレット卿夫人の甥) : イラクリ・バフタ−ゼ
マキューシオ(ロミオの友人) : 岩田守弘
ヴェローナの太守 : パータ・チヒクヴィシヴィリ
キャピュレット卿(ジュリエットの父) : ユーリー・ソローキン
キャピュレット卿夫人 : ニーノ・オチアウーリ
ジュリエットの乳母 : タチヤーナ・バフターゼ
パリス(ジュリエットの婚約者) : ワシル・アフメテリ
パリスの小姓 : テオーナ・ベドシヴィリ
ローレンス神父 : パータ・チヒクヴィシヴィリ
ジュリエットの友人 : ラリ・カンデラ
吟遊詩人 : ヤサウイ・メルガリーエフ
モンタギュー卿(ロミオの父) : マヌシャール・シハルリーゼ
ベンヴォーリオ(ロミオの友人) : ゲオルギー・ムシヴェニエラーゼ
居酒屋の主人 : ベサリオン・シャチリシヴィリ