英国ロイヤル・バレエ団 「マイヤーリンク(Mayerling)」 2010年6月22日 ロホ&アコスタ&ガレアッツィ

ものすごい迫力に圧倒された。

DVDでも観ていたのに、次々と出てくるPDDの複雑さとそれをこなしていくダンサー達の気迫、演技の凄まじさ、そして、セットや全体的な衣装の重厚感・・・その臨場感は映像では得られないものだった。マクミランらしい重くて暴力的で生々しい性描写と救いの無い結末もしっかりとしたストーリーの中に組み込まれていれば、それほど嫌悪感も感じなかった。バレエとしての振付もものすごく高度なのだけど、それ以上に演劇的な構成で、バレエを観たといよりはルドルフの物語を観たという印象だった。ノイマイヤーも複雑に構成された演出と振付を盛り込んだ作品で、観終わった後は凄い「バレエ」を観た・・・と感激したが、『マイヤーリンク』はもっとものすごい勢いで物語りに引き込まれ・・・すごい「ドラマ」を観た・・・と感じた。『マノン』より完成度が劣るとの意見もあるが、私はこちらの方がよりドラマとしてのパワーを持っていると感じた。こんなの観たことない! 生で観ることが出来て本当に良かった!

出だしのアコスタは、回転してアラベスクの繰り返しのところで、映像のムハメドフに比べて、脚の上がり方が低くて、ちょっと手抜き?と思わされたが、恐らく少し出だしが固かっただけで、ほどなくして調子が出てきたら、とんでもなかった。彼の脚のライン、腕の動き、回転は周囲とはレベルが違っていた。それにしてもルドルフ役は舞台に出ずっぱりで、終始踊りっぱなし、5人と10のPDDがあり、いずれも複雑難解なリフトがてんこ盛り。そしてアコスタのサポートは素晴らしかった。本当にタフな役なので、終幕後には抜け殻になってしまいそうだ。カーテン・コールで最初に一人で立っていたアコスタはやり遂げた充実感にあふれていたような表情だった。

ロホのマリーがまたすごいっ!一幕の最初でのかわいらしい令嬢が、憧れの皇太子をものにするために最初の逢瀬ではコートの下に下着という大胆な姿で望み、拳銃としゃれこうべを平然と手に取り銃を皇太子につきつけ脅かしてみるなど、すっかり豹変するのだ。そしてさらに官能的なオーラを増していく。非常にアクロバティックな振付なのに、身体能力の高い2人はそれをこなしつつ、情熱的な演技をしているので、依然として演劇にしか見えなかった。

終幕では、ボロボロになったルドルフと情熱的に求め合ううちに、2人とも表情が狂気に満ちていく。どんどん死へ向かっていく緊張感。絶頂での心中の合意・・・完全に物語の中に引き込まれて息を呑んで食い入るように観ていた。

ミッツィ・カスパーのラウラ・モレーラはもうひとつ華がないのがいつも不満。踊りはとても上手なのだけど。4人のハンガリー将校たちとのパ・ド・サンクはすごい・・・マクミランって鬼のよう。

ブラットフィッシュのリカルド・セルヴェラが良かった! DVDのマシュー・ハートに負けない軽やかでユニークな動き。最後に必死にルドルフの気を引こうと踊り続ける演技にも涙。ステファニー王女のイオーナ・ルーツはまぁまぁかな。初夜にルドルフにいたぶられ、恐怖で脚をブルブルさせるところは、ブルブルが弱めだったけど・・・リフトされ上手だったし、後ろ向きのパ・ド・ブレや表情など恐怖や飽きれの表現はとても良かった。この役はなぜかプリンシパルとかファースト・ソロイストとかではなく、ソロイスト級が勤めることが多いよう。いたぶられるから?? 

英国ロイヤル・バレエ団 「マイヤーリンク(Mayerling)」
2010年6月22日 18:30 - 東京文化会館


振付: ケネス・マクミラン
音楽: フランツ・リスト
編曲/オーケストレーション: ジョン・ランチベリー
美術: ニコラス・ジョージアディス
台本: ジリアン・フリーマン


ルドルフ (オーストリア=ハンガリー帝国皇太子): カルロス・アコスタ
男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(ルドルフの愛人): タマラ・ロホ


ステファニー王女 (ルドルフの妻) : イオーナ・ルーツ
オーストリア=ハンガリー帝国皇帝フランツ・ヨーゼフ (ルドルフの父) : クリストファー・サウンダース
エリザベート皇后 (ルドルフの母) : クリステン・マクナリー
伯爵夫人マリー・ラリッシュ (皇后付きの女官、ルドルフの元愛人) : マーラ・ガレアッツィ
男爵夫人ヘレナ・ヴェッツェラ (マリー・ヴェッツェラの母) : エリザベス・マクゴリアン
ブラットフィッシュ (ルドルフの個人付き御者、人気者の芸人) : リカルド・セルヴェラ
ゾフィー大公妃 (フランツ・ヨーゼフの母) : ウルスラ・ハジェリ
ミッツィ・カスパー (ルドルフの馴染みの高級娼婦) : ラウラ・モレーラ
ベイミードルトン大佐 (エリザベートの愛人) : ギャリー・エイヴィス
四人のハンガリー高官 (ルドルフの友人) : ベネット・ガートサイド、ヴァレリー・ヒリストフ、蔵健太、トーマス・ホワイトヘッド
カタリーナ・シュラット (独唱) : エリザベス・シコラ
ルフレート・グリュンフェルト (ピアノ独奏) : ポール・ストバート
エドゥアルド・ターフェ伯爵 (オーストリア=ハンガリー帝国の首相) : アラステア・マリオット
ホイオス伯爵 (ルドルフの友人) : エリック・アンダーウッド
ルイーズ公女 (ステファニーの妹) : エマ=ジェーン・マグワイア
コーブルグ公フィリップ (ルイーズの夫、ルドルフの友人) : デヴィッド・ピカリング
ギーゼラ公女 (ルドルフの姉) : サイアン・マーフィー
ヴァレリー公女 (ルドルフの妹) : フランチェスカ・フィルピ
ヴァレリー公女の子供時代 : リャーン・コープ
マリー・ヴェッツェラの子供時代 : タマラ・ロホ
ロシュック (ルドルフの従者) : ミハイル・ストイコ
ラリッシュ伯爵 : ヨハネス・ステパネク
その他、来客、メイド、娼婦、紳士、使用人、侍女など : 英国ロイヤル・バレエ団


指揮 : バリー・ワーズワース
演奏 : 東京フィルハーモニー交響楽団


◆上演時間◆
【第1幕】 18:30−19:15
休憩 20分
【第2幕】 19:35−20:30
休憩 20分
【第3幕】 20:50−21:30

ところで、Mayerlingの日本語表記を、
「マイヤーリン
「マイヤリング」
など、どうしようか迷ったのだが、オーストリア政府観光局のホームページ中に「マイヤーリン」との記載があったので、こちらに従った。邦題の『うたかた・・・』は嫌いなので使っていない。