英国ロイヤル・バレエ団「ロミオとジュリエット」2010年6月26日 コジョカル&ペネファーザー その2

第二幕
<広場>
いつものように人でにぎわう広場。娼婦たちが街の男たちを誘惑して女たちともめたり、マキューシオとベンヴォーリオがなじみの娼婦たちとからむ。ベンヴォーリオの蔵さんは踊りは申し分ないのだが、どう見ても娼婦と遊べる人には見えなくて。これはマイヤーリンクの時もそう思った。

ロミオがジュリエットとの逢瀬の余韻に浸りきって登場。いつも贔屓にしている娼婦がロミオの側に寄るがロミオは相手にしようとしない。娼婦はしつこくつきまとう。ロミオはその手を激しく振り払ってしまい、自分でもびっくり。詫びて踊り出す。娼婦はいつものようにキスを求めるが、ロミオはおでこにキス。ロミオはすっかり変わってしまったのだ。

結婚式の行列がやってくる。見とれるロミオ。ジュリエットとの結婚を妄想している。牧師にも丁寧に挨拶。結婚式の行列の後からマンドリンダンスの一行。このご一行ピンクの衣装に顔にはピエロメイク。リーディングは先日プリンシパルに昇進したばかりのセルゲイ・ポルーニン君・・・のはずが、これじゃ男前の顔がわからない〜! 踊りはダイナミックで華やか。

ジュリエットの乳母がジュリエットからロミオ宛ての手紙を携えて広場にやってくる。自分宛てだとわかっているのに、ちょっといたずら心が芽生えて悪友たちと乳母をからかう。このシーンは、バージョンによって乳母がとてもコミカルなものがあるが、余計な装飾だと感じることが多い。マクミラン版はふざけすぎず、でも緊張を緩められる良いシーンだ。

<教会>
手紙をロミオがロレンス僧に見せる。ロレンスは「だめだめ」というマイムをするが、すぐにちょっと考えてうなずく。2人の結婚が両家の諍いを鎮めることになればと考えたのだろう。マクミラン版はロレンス僧関連は必要最低限な演出だ。

儀式を終えていつまでもキスを交わす2人。なんだかこちらまで幸せでドキドキする。乳母に引き離され、2人は分かれる。

<広場>
先ほどの結婚の祝いが続けられている。ボロボロで足の悪い物乞いが幸せな人々の中を横切るのは、この先の不幸の暗示なのだろうか。人々がエネルギッシュに踊る。ロミオがいない分、娼婦の1人と踊るのはマンドリンのリーディング役。結構踊れる人を配役するのはこのためなのだ。

酔っ払ったティボルトが剣を振り回しながら入ってきて、お祭り騒ぎを遮る。短剣と長剣の二刀流。マキューシオも同じく二刀流で対抗。幸せ気分で結婚式から帰ってきたロミオは「親戚となった」ティボルトと友人のマキューシオが剣を交えているのを見て、止めに入る。ティボルトはロミオを挑発するが、ロミオは応じない。マキューシオが代わりにティボルトと戦い始める。酔っ払っているティボルトは劣勢。ふざけながら打ち込んでくるマキューシオについには剣を払い落とされてしまう。マキューシオはばかにしたように自分の剣でティボルトの剣をすくい投げ、ティボルトに返してやる。マキューシオはティボルトに背を向け、自分の勝利に高笑いしながらロミオの元へ。ここでわからないのは、ロミオは側に来たマキューシオを突き飛ばし、ちょうど背後から襲おうとしていたティボルトの刃がマキューシオを刺してしまうという演出。これでは不慮の事故で、自分の突き飛ばしたせいでもあるのに、この後ロミオがティボルトに復讐の怒りをぶつけるのはなんだかおかしい。DVDではロミオはマキューシオを突き飛ばしたりせず、単にティボルトが背後から突き刺している。

マキューシオの死。ここもマクミラン版はかなりあっさり。しつこいノイマイヤー版の記憶が新しいからだろうか。ロミオは激昂し、ティボルトと激しく剣で闘う。このファイトは本当に激しい。これまでちょっと頼りない感じのペネ君が大変男らしい。ついにはティボルトを刺し殺す。ロミオはここで我に返る。

回廊の上から甥が殺されるところを見たキャピュレット夫人は半狂乱で駆け下り、ティボルトの亡骸にすがる。キャピュレット夫人の激しい慟哭。マクミラン版ではキャピュレット夫人とティボルトの関係について特に描かれていないので、どうしてここまで悲しむのかはちょっとわかりにくい。


第三幕
<ジュリエットの寝室>
舞台中央に客席側に傾斜した大きなベッド。ボーン版のスワン・レイクを思い出した。ボーンはこのベッド使いをヒントにしたのだろうななんて。

傍らで眠るジュリエットの顔をみつめ、そっとキス。ベッドから静かに起き上がり、黙って立ち去ろうとマントを羽織っているとジュリエットが気がついて起き上がる。必死で引き止めるジュリエットと離れがたいけど去らなければならないロミオとの短いが激しく切ないパ・ド・ドゥ。最後のキスをしてロミオは行ってしまう。泣き崩れるジュリエット。この辺りから完全にジュリエットに感情移入。悲しくて一緒に泣けてきてしまう。

悲しみにくれるジュリエットの下へ両親がパリスを連れてやってきて、パリスの求婚を受け入れるように言う。ジュリエットは激しく拒否する。これにはパリスもびっくり。パリス役のヨハネス・ステパネクは甘いマスクのノーブルなハンサムで、ジョナサン・コープやジョゼ・マルティネズをかわいくした感じ。これまで常に紳士な態度だったのに、ここで初めて憤慨の表情をみせる。キャピュレット公は娘に思わず手を上げる。

両親達は怒り心頭で一旦退出する。ジュリエットは絶望にくれ、ベッドに座り込む。考え込むうちに一つの希望を見出す。ここでのコジョカルの表情の変化は音楽とマッチしていて非常に雄弁で感動的だった。

激しいパ・ド・ドゥが印象的なマクミラン版だが、全幕を通して観ると、動きを止めて、視線だけで演技することが多用されていることに改めて気付いた。この緩急が非常に効果的なのだ。特にこのジュリエットが愛に生きる決意をするシーンは観客を物語りに引きずりこむ。素晴らしいシーンだ。

ジュリエットは希望を持ってロレンス僧の下へ駆け出す。

<教会>
救いを求めてきたジュリエットにロレンス僧は仮死状態になる薬を渡す。ここで、ジュリエットに催眠術をかけるようなマイムがあるが、これ以外に説明的なマイムはなく、このシーンではジュリエットを仮死状態で埋葬されるように仕組、それをロミオに伝え、墓所からジュリエットを連れ出して2人で逃げる・・・といった計画が立てられたことはわからないと思う。

<ジュリエットの寝室>
教会からジュリエットの寝室へ。この場面展開はスムーズで巧み。人の気配にジュリエットは薬を枕の下に隠す。両親が再びパリスを伴ってやってくる。無表情でパリスと踊る。でも、ついつい拒否してしまうのだが・・・最後に結婚の承諾をする。手にキスしようとするパリスをやはり拒んでしまうのだが、結婚を承諾してもらって上機嫌になったパリスは気にしない。

再び一人になったジュリエットは薬を取り出す。死の恐怖に怯える。逡巡しながらも強い決意で飲み干す。嘔気。毒に苦しみながら、辛うじてベッドに横たわる。一連の演技がとてもリアル。

結婚の祝いにやってきた友人たちの踊り。ジュリエットの死に気付いて呆然としているところへ両親が入ってくる。娘がいきなり死んだのにあまり驚かないパパでちょっと?予感がしてたのかしら?

<キャピュレット家の墓室>
DVDとセットが大きく変わっている。周囲に死体はなく、中央の台で眠るジュリエットの頭上の石?の彫り物がやけに目だっていた。

パリスだけがジュリエットの側に残る。と、いつの間にか舞台下手にロミオ。ひくひく泣きながらジュリエットの側へ寄ろうとすると、目の前にパリスが立ちはだかる。そのパリスを短剣で一突きで殺害。ここもあっさり。

死んでしまったことが信じられず、ジュリエットの亡骸を起こして、何度も揺さぶり、動かし・・・ペネ君が健気で涙を誘う。実際は死体のふりをしつつ踊りをあわせるジュリエットの方がタフな振付だろうが。ジュリエットを台に戻し、そっと髪をなでつけ、意を決して薬をあおる。

切ないのは、ロミオが事切れたすぐ後にジュリエットが目を覚ますところ。あとほんのちょっと早ければ・・・目を覚まし、暗い墓室に怯える。DVDだと周りに安置されている遺体を見ても怯えるんだけど。パリスの遺体を見てさらに驚く、短剣が落ちていることから何者かに殺害されたとすぐに察知する。台の反対側へ行ってみると、そこには愛しいロミオが。

ここでコジョカルは一瞬喜びの表情を浮かべ、すぐにロミオの異変に気付く。揺さぶり、キスして息がないと思うや、悲しみの絶叫。全身からすべてを絞りだすような動作そして表情・・・ ほどなく、私も後を・・・と短剣を拾いに行き、迷うことなく自らの胸に突き刺す。最後の力を振り絞ってロミオの側へ行き、手に触れるや息絶える。不幸な恋人達の屍を覆い隠すように幕。

マクミラン版では両家の和解のシーンは割愛されている。

主役から脇役にいたるまで、素晴らしい演技と踊り、演出の素晴らしさ、感動でしばらく身動きできないぐらいの舞台だった。