英国ロイヤル・バレエ団「ロミオとジュリエット」2010年6月27日 吉田&マックレー

都さんが素晴らしかったのはもちろんなのだけど、私の本日の一番はスティーブン・マックレー。テクニックも冴え渡っているし、ポール・ド・ブラが美しくて、貴族らしい気品もあって・・・

都さんのジュリエットはかわいらしい少女。ちょっと幼すぎて、おきゃん過ぎて、私のイメージのジュリエットではなかった。・・・というか、これは、コジョカルから間をおかずに観てしまったのが敗因かと。・・・逆の順で観たかった。踊りは素晴らしい。本当にこれでロイヤルを引退してしまうの?という踊り。NHKのカメラがどどーんと客席中央に入っていたから、これが映像で残るのだろう。ドキュメンタリーなのか開幕前後のホールや会場の様子も撮影していた。

第一幕
マックレーは立ち姿がとても気品があり、昨日とは違って貴族の子息のロミオ。昨日のペネ君は軽い兄ちゃんだったが、マックレー君はプレイボーイといった感じ。

身体能力も高く、跳躍は高さがあり、回転は速くてキレがある。しかも、体のラインも美しく、ジュテで滞空時のポーズがとてもきれい。そして、何より腕の動きがとても優雅。一挙に虜になってしまった。同じように感じた人も多いと見えて、マックレーのソロが終わる度に拍手が起こる。昨日にはなかった(笑)。

本日のティボルトのトーマス・ホワイトヘッドは男性らしい精悍な容姿だが、脚が細くてきれいだった。剣の扱いもうまく、一番様になっていた。

両家が剣を交えて争うシーンはかなり本気で打ち合っていて、その迫力に感心。ヴェローナ大公が出てきて戦いを収め・・・とロミオを見たら、なんと額から血が流れている! マックレーの白い肌に鮮やかな赤の鮮血が一筋眉間から左の頬に筆で描いたように伝っていた。幸いにも血が噴出して止まらないという感じではなかったし、このシーンが終わるまで舞台下手側にいて、客席には右の横顔を見せることが多かったため、それほど舞台の雰囲気を壊すことはなかったが・・・ママ、キャピュレット夫人が隙をみて頬の血を少しぬぐってあげていた。周囲の人も動揺したことだろう。シーンが終わって暗転するまでドキドキした。

<ジュリエットの部屋>
それを払拭するかのように、とても明るくおきゃんに都さんジュリエット登場。少々おきゃん過ぎて、少女というよりいたずらながきんちょすぎて、私はやや違和感を感じた。コジョカルと立て続けに観たのが惜しまれる。もう少し間をおいて観たかった。

<キャピレット家の前>
再びマックレーが登場した時は、血をぬぐって元通り。傷痕はぷっくりと痛々しいけど、出血は止まったようでほっ。3人の踊り。

本日の3人組みはアングロサクソン系ハンサムボーイで統一してあって、見た目のバランスは良かったが、マキューシオのブライアン・マロニーはソロだとやはり重さが目立つし、ポルーニンは舞踏会の前の3人ダンスはステップを間違えた?忘れた?で、ちょっと遅れ気味なところも。

<舞踏会>
舞踏会が始まり、貴族達の踊り。今日はなんだかセンターのキャピュレット公が目立つなぁ・・・と思ったらギャリー・エイビスだった。目力が強くてなんとも存在感のある役者だ。

違和感と言えば、ジュリエットがパリスと舞踏会で踊るシーンで都さんはかなり満面の微笑みでパリスと踊っていた。とまどいよりも社交界デビューの喜びを前面に出しているのかな。パリスが自分の手を取って踊っていることの意味もわからない子供という解釈なのだろうか。パリスだって随分嬉しそうだった。

マンドリンをつまびく都さんは本当に音楽に合わせて手を動かしてた。そこまで音楽的とは!

<バルコニー>
バルコニーは広場のセットの中央階段を残して左側を取り払ったものそのまま。それは構わないのだが、問題は中央の階段もそのままあって、バルコニーの手すりがないこと。夢見がちにバルコニーに出てきたジュリエットには手すりが必要なんじゃないかなぁ。そして、舞台上手の階段ではなく、中央の階段を使う。舞台上手側のお客さんが見切れてしまうことはないから、親切な改訂なのかもしれないけど、イメージの刷り込みがあるからやはり違和感が。

となんだかこれまで文句ばかりが先行してしまったが、2回目ゆえに荒が見えてしまうもの。これもロミオがマントを翻して登場してからはさすがにすっかり消え去り、物語に没入していきました。

バルコニーからロミオを見つめる都さん。以前NHKの番組でスタジオのセットでワトソンとこのバルコニーのシーンを演じたのを観たとき、ロミオを見つめる都さんの喜びととまどいが入り混じった表情が強く印象に残った。本日もやはり都さんのこの表情は絶品。生で観ることが出来て本当に嬉しい。
 
バルコニーからジュリエットが降りてきて、嬉しいロミオのソロ。マックレー君、ほんとによく回る回る・・・。サポートも上手い。リフトが美しく決まる。都さんのステップの軽やかさラインの美しさにため息。このまま時が止まってほしいと思ってしまった。


第二幕
<広場>
娼婦役は同じキャスティング。このツアーではラウラ・モレーラが大活躍。プリンシパルとは思えない働きぶり。というか扱い・・・だけど、なんでも上手く、ほんとに器用にこなせる貴重なダンサーだ。

マクミラン版では、ベンヴォーリオとマキューシオがほぼ同じ振りで踊るシーンが多いが、このシーンではポルーニンの大きな跳躍が目を引いた。が、やはり本日の主役マックレー君の超絶技には叶わないかな。乳母からジュリエットの手紙をもらった後、うれしくって乳母の周りを高速シェネでぐるぐるぐる・・・あまりの速さに、会場からはなぜか笑いが出るほど。でも、あくまで彼のテクニックの見せ方はひけらかしがなくて、上品。

<教会>
結婚式を挙げる2人。誓いのキス・・・それにしても、この2人は実年齢が20歳以上離れているのに、都さんがあまりに可憐でそれだけの差があるようにはまったく見えない。凄すぎる。

<広場>
ティボルトとマキューシオの闘い。これが大迫力。両者とも剣さばきが上手い。ロミオとマキューシオにしてもすごい打ちあい。今日はかなり前方で観たので、結構本気で剣を交えているのに驚く。これは当たったら、怪我するわけだ。

今日はロミオがマキューシオを突き飛ばすというよりは、ロミオに軽く肩を押されて歩後ろに下がったところで、背後から迫ってきたティボルトが刺したと言う感じだった。こちらの方が自然。マロニーは踊りは今一つだったけど、演技は悪くない。なかなか良い死にっぷりだった。が、本日はティボルトの方がさらに素晴らしい死にっぷりだった。

キャピュレット夫人は今日のジェネシア・ロサートの方がさらにすごい嘆きぶりだった。

第三幕
<ジュリエットの寝室>
ジュリエットの頭を優しく撫で、キスし、そっと起き上がる。ペネ君はすでに悲しそうな感じだったけど、マックレー君はそこまで辛そうな表情ではない。パ・ド・ドゥの間もペネ君ほど激しい感情をむき出しにしない。少しスマート過ぎるロミオかな。ま、ここからはジュリエットが主役だから良いか。

両親とパリスが入ってきて、結婚を承諾するように言う。ここでの都さんのパリスへの拒みようがすごい。嫌悪の塊り。なるほど、一幕の時はやはりまだ恋も何も知らなかったから、微笑んで踊ることも出来たけど、ロミオへの恋が彼女を変えてしまったのだ。都さんはそれをはっきりと表現していたのだ。

都さんの表情、瞳は非常に雄弁。ベッドに座って思い直すシーンではほとんど瞳だけの演技なのに、絶望の淵からロミオとの愛ために行動を起こす決意をするジュリエットの心の動きがしっかりと伝わってきた。

・・・途中割愛・・・
<キャピュレット家の墓室>
都さんの死体っぷりが素晴らしい。どこにも力が入っているように見えない。コジョカルはちょっと脚でジャンプしてるのがわかっちゃんたんだけど、パートナリングの違いか、だらりとしたまま肩に乗せられていた。マックレー君のジュリエットの扱いがとても丁寧。優しく優しく棺台に横たえる姿にまた涙。

目覚めてからの都さんの演技はコジョカルと大きく違っていた。パリスの遺体を見て、恐怖よりは「なぜこんなことに・・・」という表情。横たわるロミオを見て、再開の喜びはなく瞬時に異変を察知する。そして、大きな絶叫ではなく、都さんらしい静かな叫び。その後迷うことなく自らの胸を刃で突き刺し、必死に台の上を這ってロミオに触れると安堵したような微笑。仰向けになり事切れると2人の魂がすうっと天に召されていくようだった。

カーテン・コールは何回あっただろう。客席が明るくなってからも4回ぐらいあっただろうか。もちろんほぼ総立ち。最終日はもっとすごいのだろう。

これまで、都さんの踊りは「シンデレラ」や「眠り」、「くるみ」などのおとぎ話しかみたことがなかった。物語バレエの舞台ももっと観たかった・・・と終幕後に思った。けど、もうこれが最後。悔やまれる。

最後に・・・東京フィルの弦楽器は素晴らしかった!最初の前奏曲から気分が一気に盛り上がった。金管はいつもよりは良かったけど、もう少し・・・よれないで欲しい!

英国ロイヤル・バレエ団
ロミオとジュリエット
振付: ケネス・マクミラン
音楽: セルゲイ・プロコフィエフ
美術/衣装: ニコラス・ジョージディアス
照明: ウィリアム・バンディー


2010年6月27日 18:00− 東京文化会館


ジュリエット:吉田都
ロミオ:スティーヴン・マックレー


マキューシオ:ブライアン・マロニー
ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ:セルゲイ・ポルーニン
パリス:ヨハネス・ステパネク
キャピュレット公:ギャリー・エイヴィス
キャピュレット夫人:ジェネシア・ロサート
エスカラス(ヴェローナ大公):ベネット・ガートサイド
ロザライン:タラ=ブリギット・バフナニ
乳母:クリステン・マクナリー
僧ロレンス:アラステア・マリオット
モンタギュー公:アラステア・マリオット
モンタギュー夫人:ローラ・マッカロク
ジュリエットの友人:リャーン・コープ、べサニー・キーティング、イオーナ・ルーツ、
エマ=ジェーン・マグワイア、ロマニー・パジャク、サマンサ・レイン
3人の娼婦:ヘレン・クロウフォード、フランチェスカ・フィルピ、ラウラ・モレーラ
マンドリン・ダンス:ホセ・マルティン
ポール・ケイ、蔵健太、ミハイル・ストイコ、アンドレイ・ウスペンスキー、ジェームズ・ウィルキー
舞踏会の客、街人たち: 英国ロイヤル・バレエ団


指揮: ボリス・グルージン
演奏: 東京フィルハーモニー交響楽団


◆上演時間◆
【第1幕】 18:00−19:05
休憩 20分
【第2幕】 19:25−20:00
休憩 20分
【第3幕】 20:20−21:00